Puff, the magic dragon

Peter,Paul and Mary (PPM)というフォークグループがあります.当時,ベトナム戦争などを背景に,公民権運動にも参加したグループです.そのグループのMaryさんが先日(9月16日),がんのために亡くなりました.以下は,PPMのPuff, the magic dragonを訳してみたものです.

教えてもらった友人(→http://d.hatena.ne.jp/edouard-edouard/20090920)に感謝.

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パフという魔法の竜は海の近くに住んでいて,
オーナー・リー(注:お伽の国の名前)と呼ばれる島の秋の霧の中ではしゃいでいました.(*)

ジャッキー・ペーパー少年はわんぱくなパフが大好きで,
糸やロウやオモチャを持ってきていました.

(*繰り返し)(*繰り返し)

一緒に彼らはボートで大波がうねり立つ航海をしたものでした.
ジャッキーは見張り役をし続けるのに,パフの巨大なしっぽに乗りました.
高貴な王や王子であっても,彼らがやってきたところならどこでもおじぎをするでしょう.
海賊船であっても,パフが自分の名前を唸れば白旗をおろすでしょう.

(*繰り返し)(*繰り返し)

竜は永遠に生きます.けれど,少年はそうはいきません.
色の塗られた羽と大きなリングは他のおもちゃに道をゆずります.
ある灰色の夜に突然,ジャッキーはもう来なくなりました.
それからというもの,強き竜パフは人をも畏れぬ唸り声をあげなくなりました.

彼の頭は哀しみで折り曲がり,緑のウロコは雨のように剥がれ落ちました.
パフはもう桜の小道にぶらぶらと遊びにいくこともありません.
生涯の友なくしては,パフは勇気も出ないでしょう.
だから,強き竜パフは悲しく,自分の洞穴に退いてしまったのでした.

(*繰り返し)(*繰り返し)

☆☆☆

 フォークソングは青春の曲です.この「パフ」には色々な意味が込められています.
 舞台はオーナー・リーというお伽の国で,「パフ」という名前は竜の不思議な息や鳴き声に由来しているらしいです.少年ジャッキー・ペーパーと死なない竜パフとの楽しいひとときの交流が描かれています.竜の背中に乗って世界に旅立つジャッキー少年.生き生きとした光景ですね.この曲はアメリカを中心に大ヒットし,アニメが作られるまでになっています.
 パフは死なない竜ですが,ジャッキーはそうはいかず大人になります.いつまでもパフと遊んでいるわけにはいきません.ある夜,パッタリとジャッキーはパフのところに遊びにこなくなってしまいます.パフとジャッキーのすれ違いがなんとも悲しいです.が,これは世の中の一つの真理を示していると言えるのです.
 君たちは今,ジャッキー・ペーパーでしょうか.けれども,人はいつか大人にならねばならないのです.そのとき,パフのもとを去らねばなりません.けれど,これは仕方のないことです.時間がたてば人は変化します.1年で体中の細胞が全て生まれ変わるように,人間関係も生まれ変わります.変わることを恐れてはいけません.
 人は皆,ジャッキー・ペーパーなのです.それに,これから先の長い人生,君たちがパフの立場になることもあるでしょう.ジャッキー・ペーパーに去られたパフも,新しい「ジャッキー・ペーパー」を見つけねばなりません.人は皆,ジャッキー・ペーパーであり,パフなのです.
 一年間ありがとう.君たちはこれから新天地に進みます.勇気を出して旅立ちましょう.人は時間とともに変わっていかねばなりません.けれど……,たまにはパフと過ごした懐かしい時間を思い出してくれれば嬉しいです.それで,大学での生き生きとした新しい生活を僕のところに自慢しにくる,そういう大学生になって下さい.皆ひとりひとりを心から応援しています.

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 一年間してきた塾の仕事が,一回りしました.これは僕の最終ガイダンスです.それもまた,友人によるPuffの紹介という人のつながりがあってはじめて可能になったものです.
 高校生の大半はその最後の時期に受験という一大行事にコミットしなければなりません.受験勉強は,勉強の面白みを真に理解している者からすれば,本質的にバカバカしいものです.だから,これはある種の不条理です.けれど,不条理を批判するには,その不条理を乗り越えなければならないのです.そして,僕は人生を狭くもしかねないその受験勉強に彼らを駆り立てるという,これもまた不条理な立場にいるのです.
 このことにずっと悩んでいました.自己矛盾です.けれども,現実は現実として受け入れなければならないのです.だって,不条理を乗り越えた者じゃないと,不条理は批判できませんから.

 生徒たちには,今を楽しんで生きて欲しい,そう思っていました.ちょうど一年前,授業が始まった頃です.「学校が楽しいです.今が本当に楽しいです.」そう言っていた女の子がいました.彼女は英語ができない生徒でした.
 その女の子は,一年たった今,考えが変わったと言います.一年前の自分は間違っていました,と.やはり,将来のことを考えて今を生きないといけませんよね,と.
 そうです.ジャッキー少年は大人になっていくのですね.けれども,もしかしたら,それは少しだけ,寂しいことなのかもしれません.